〜His Favorite Sweets〜 
                        葵様

 





「あーあ、お正月、終わっちゃいましたねぇ・・・」

こたつの中で総司が呟く。
一体何度同じセリフを呟けば気が済むのかと、呆れ果ててセイは総司を見た。
「あのとろけるような栗きんとんにも、ふっくら炊き上がった黒豆にも、ふわふわの伊達巻にも、
来年まで会えないんですねぇ・・・」

年が明けてからもう十日余りが過ぎるというのに、いつまでも正月料理に思いを馳せる総司に、
セイは少々うんざりしながら言った。
「先生、年に一度だからこそ、より美味しく感じるんでしょう?年中口にできたら、有り難味がなくなりますよ」
「そんな事はありませんよ。一年中食べられるなら、それに越した事はないんですから!」
力説する総司を無視して、セイは掃除機を持ち出してきた。
「さ、先生、そこちょっとどいて下さい。今のうちに掃除を済ませておきたいので」
「神谷さん、最近冷たいですよねぇ・・・」

しくしくとこたつ布団に顔を埋めて泣く振りをする総司に構わず、掃除機のスイッチを入れる。
とうとう諦めた総司が、こたつ布団から這い出て、邪魔にならない場所に移動する。
その後姿を見ながら、掃除の手を休めることなく、セイは心の中で溜息をつく。

“先生って、私と甘いものと、どっちが好きなわけ?”

二人で過ごす時間といえば、大抵こうやって総司のアパートでくつろぐか、ケーキ屋巡りをするか。
それ自体には何ら不満はないのだが、しかし、彼の甘いものに対する執着心には時折眩暈がする。
いくら太らない体質だからといって、明らかに食べすぎではないか。
そして自分といる時よりも、目の前に好物が並んでいる時の方が明らかに嬉しそうだと思うのは、
決して“ひがみ”なんかではない筈だ。

“よし、決めた!今年は先生に甘いもの絶ちさせてやる!”

勢いよく掃除機をかけながら、セイは今年の目標を心の中に掲げた。
さほど広くないワンルームの部屋に掃除機をかけ終えると、待ちかねていたように総司がこたつに潜り込む。
「ねえねえ神谷さん、ケーキでも買いに行きません?」
早速攻撃をしかけてきた敵に対して、負けてなるものかとセイは総司に向き直る。
「そりゃあ確かに先生はどれだけ食べても太らないからいいかもしれませんが・・・」
「はい?」
「私は先生とは違うんです。甘いものばかり食べていたら太るし、お肌だって荒れてきます」
「はあ・・・」
「ですから当分、甘いものは控えようと思います。先生もつき合ってくれますよね?」
「えっ・・・」
総司の顔が一瞬青ざめたのをセイは見逃さなかった。
「まさかとは思いますが・・・甘いものを控えてる私の目の前でケーキを食べるなんて無神経なこと、
先生はしませんよね?」
「え・・・ええ、そりゃもう・・・もちろんですよ・・・いやだなぁ、神谷さんたら・・・」
必死にそう応える総司の顔には明らかに失望の色が見てとれたが、これも彼のため、とセイは心を鬼にした。

“そうよ、これも先生のため。糖尿病にでもなったら笑い話では済まないんだから”

こたつの中でしゅんとする総司を見ると少し可哀想かなと一瞬思うが、すぐに考えを改めて、セイはキッチンへ向かった。
ケーキの代わりに、せめて美味しいコーヒーを入れようと思い、お湯を沸かす。
総司はというと、こたつに半分顔を埋めて、つまらなそうにテレビを見ている。
ほどなくコーヒーの良い香りがたちこめ、セイはコーヒーを注いだマグカップをトレイに載せてこたつに戻った。
総司にカップを手渡し、自分もテレビを見ながらこたつに入る。

「ねぇ、神谷さん・・・」
はい?とテレビから総司に視線を移そうとした時、いつの間に移動したのか総司が隣にきていた。
「私、甘いもの食べないと、死んじゃう生き物なんですよ・・・」
「はぁ!?」
「私が死んだら困るでしょう?」
何をバカなと反論する暇もなく、総司の腕の中にすっぽりと納まってる状況に、おそらく真っ赤になっている
だろう、自分の顔を見られたくなくて、セイは総司の胸に顔を埋めようとした。
しかし総司がそれを許すはずもなく、彼と目が合った瞬間、セイはつい先程掲げた自分の目標を早くも
後悔することになる。

「だからね・・・」
囁きながら、総司がセイの顔にまんべんなくキスの雨を降らせる。
「ケーキの代わりにあなたでガマンしますよ」


その後、セイの今年の目標は、総司のために糖分とカロリーを抑えたお菓子を作ること、と書き換えられた。













葵さまのサイト ―『浅葱桜』様― の開設記念フリーSSを頂戴しました。
飾るのが遅くなってしまって申し訳ないです ><

うふふv 甘〜いものが大好きな総司と、
彼の健康のために何とかそれを控えさせようとするセイちゃんの攻防が楽しいです。
結局総司に軍配があがったようですが(笑)
それはそうですよね、その手でこられたら…逃れようがありませんものね。
セイちゃんの健闘を祈ります(笑)

葵さん、サイト開設おめでとうございます。

素敵な御品をどんどん書いてくださいね。
これからも葵さんの甘〜い御品、楽しみにしています。
















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