〜I'm crazy about you〜
葵様
「セイ・・・?」
いるとばかり思っていた部屋には、誰もいなかった。
明かりも点いていない、暖房も入っていない。
「今日じゃなかったっけ・・・?」
慌てて携帯を取り出して、受信メールを確認する。
一週間前に届いたメール。
“14日の夜、お部屋で待ってます。早く帰れる?”
「今日だよな・・・」
手に提げている紙袋の中身に目をやる。
色取り取りにラッピングされた、数々のチョコレート。
自分のアパートの玄関先に突っ立っていても仕方がない。
中に入り、部屋の明かりを点け、エアコンのスイッチを入れる。
セイが来た気配はない。
「なんかあったのか・・・まさか事故とか・・・」
あいつは約束を破るような奴じゃない。
心配になって、電話をかける。
9回目のコールの後に、ようやく通じた。
「おい、セイ?どうした?何かあったか?」
『・・・何も』
「何もって・・・お前、今日来るって言ってただろ。だから早く帰ってきたのに・・・」
『今日、行かない』
「何で?」
『・・・何でも。気が変わったの』
「おい・・・何怒ってるんだよ」
『・・・怒ってないよ・・・』
「説得力皆無な声出すなよ。何、怒ってる?」
『・・・もう切るね』
「おいセイ、お前、今どこ・・・」
電話は切れた。
「何だよ・・・まったく」
彼女を怒らせるような事をした憶えはまったくない。
そりゃあ、あいつと付き合うまではそれなりに遊んでいた事は認めるが・・・。
心当たりをあれこれ考えながら、スーツを着替える。
とりあえずタバコでも吸おうと思ったら、タバコを切らしていた事に気付いた。
「仕方ない、コンビニ行くか」
コートを羽織り、財布と携帯だけ持って、部屋を出る。
コンビニ目指してアパートの前の道に出た時、見覚えのあるシルエットが目に入った。
「セイ・・・」
驚いて、俯いてる彼女に駆け寄る。
「お前・・・何してるんだ?」
「もうやめるって、言いに来た」
「やめるって・・・何を?」
「歳三さんの彼女」
「・・・何で」
「自分の胸に訊いてみれば」
「まったく心当たりないんだけどな」
「・・・一昨日、綺麗な人と、腕組んで歩いてた」
「・・・あ・・・」
思い出した。
一昨日の夜、同期入社の連中で年に一度行われる飲み会の為の場所を下見しに行った。
今まで逃げ続けてきたが、とうとう今年は幹事から逃げられなかった。
同じく幹事になった同期の女性社員と一緒に、目当ての店に出かけた時、彼女がふざけて腕を組んできた。
友達みたいな女だったから気にも留めずにそのまま二人で歩いてたが、それを見られていたのか。
「お前、誤解してる」
「誤解でも何でもいいよ」
「あいつは同期で、しかも結婚してて、あれでも二児の母親だぜ」
「・・・そうなの?」
ようやく、セイが顔を上げて俺を見た。
暗くてあまり見えないけど、多分、寒さで鼻の頭が赤くなってるんだろう。
「そんな事で怒ってたのか?」
「私には、“そんな事”じゃないもん」
「信用ないんだな、俺も」
「だって、歳三さん、モテるじゃない。私の前にもいっぱい付き合ってたじゃない」
「この歳で、今まで誰とも付き合ってなかったら怖いだろ」
「私なんて、歳三さんの周りにいる女の人と比べたら、子供だもん」
「若くっていいじゃねーか」
「・・・もう、いやなの」
「何が?」
「私ばっかり、ずるい」
「だから、何が」
「私ばっかり、歳三さんを好きなんだもん!」
胸の奥を、何ともいえない感覚が走り抜けた。
何てこと言うんだよ、こいつ。何てこと言ってくれるんだよ、こいつは。
堪らず、彼女を抱きしめる。
「お前・・・何にもわかってないね」
「何がよ・・・」
セイは、しゃくり上げながら俺の胸に顔を埋めている。
「俺だって、気が気じゃないんだからな」
「え・・・?」
「お前が大学で、俺より若くていい男になびくんじゃないかって、いつもはらはらしてるんだ」
「そんなの・・・あるわけないじゃん」
「なら俺も・・・あるわけないだろ」
少し身体を離して、互いの顔を見つめ合う。
「・・・歳三さん、顔、真っ赤」
セイが俺の顔を見て、ぷっと吹き出した。
「うるせーよ!」
髪の毛をくしゃくしゃにすると、上目遣いで睨んできた。
参ったな・・・そんな顔まで可愛いんだから、反則だよな・・・
「ほら、コンビニ行くぞ」
強引に肩を抱いて、歩き出す。
「何、買いに行くの?」
鞄から取り出したティッシュで鼻をかみながら、セイが訊いてきた。
「たばこと、晩飯。誰かさんが作って待っててくれると期待してたから何もない」
「・・・ごめん」
「誠意で表してくれなきゃな」
「・・・何、考えてるか分かった・・・」
「そりゃ話が早い」
「・・・スケベオヤジ」
夜道を二人で、コンビニ目指して歩く。
こいつは、全然わかっていない。
俺の方が遥かに惚れまくってるって事を。
しかしまあ、もうしばらくは、優勢を保つ事にしようか。
帰ったら真っ先にあの紙袋を隠そうと決心しながら、世界で一番惚れてる女と歩く夜道は、やけに楽しいものだった。

バレンタインフリーのつもりだったのですが… と仰る葵さまに、
是非フリーに…と“お願い”して戴いて参りました。
あ〜、それなのに飾るのが遅いのはどういうことなのでしょう……(苦笑)
本当に申し訳ないです ><
それにしてもバレンタインデーとはいえ、葵さまの『歳セイ』が拝めるなんて幸せです。
歳を愛するが故、『歳セイ』を書けない葵さま。
拝読しながら、私はセイちゃんと葵さまを重ねておりました。
セリフの一つ一つが葵さまらしいというか、可愛らしくて…(*^-^*)
甘甘な二人をどうもありがとうございました、葵さまvv
我侭を言ってごめんなさい。
そして、これからも仲良くしてくださいね。
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