〜I can't disobey you〜 
                        葵様

 





ホワイト・デーまで10日に迫った土曜日の午後。

目的の品を探しに、街へ出掛けた。
この前のバレンタインの時に、俺の心を鷲掴みにしたあいつに、何かを贈ろうと思って。

何軒か店を回り、ようやく気に入った品を見つけた。
これならあいつも気に入るだろう。
本人を連れてきて選ばせるのが一番楽で確実だが、俺はあいつを驚かせたかった。
これを渡した時、あいつはどんな顔をするだろう?
そんな事を想像しながら、品物を受け取り、店を出た。

途中、通り掛かったデパートで、ふと思い出し、中に入る。
地下の売り場では案の定、ホワイト・デーの商品が所狭しと並んでいた。
適当に見繕い、必要な品数をカゴに放り込んで、レジに並ぶ。
こんなところを見られたら、またへそを曲げるかもしれない。


結局、先月隠したつもりのチョコは、すべてあいつに見つかった。
大して広くもないアパートの部屋だから、当然と言えば、当然なのだが。
せっかく直りかけたあいつの機嫌が再び悪化しそうになって、なだめるのに一苦労だった。
こういう時に限って、近所に住む糖尿病一歩手前の弟分は、チョコを引き取りに来なかったりする。


『一体どこの誰から、こんなに貰ってくるのよ!?』
『どこの誰って・・・会社とか、飲み屋とか・・・』
『飲み屋!?歳三さんて、そういう人だったの!?もうっ、信じらんない!!』
『大人には大人の付き合いってもんがあるんだよ・・・』


それでもなんとか機嫌を直してくれて、正直ほっとした。
このホワイト・デーで、目一杯ポイントを稼いでおこうなどと俺が思ったのは、こういう理由だった。


必要な物を全て買い揃え、アパートに戻る。
携帯を取り出して、あいつにメールしようとして、壁のカレンダーを確認する。

「14日って、火曜日だな・・・」

先月のバレンタインの時もそうだった。
今度も、早めに帰れるだろうか。

「月の半ばだし、何とかなるだろ」

そう呟いて、メールを打つ。

“14日、部屋に来いよ”

5分も経たないうちに、返信が来た。

“行けるかどうか、わかんない”

「なに!?」

その返事に驚き、すぐにあいつの携帯に電話する。

『・・・もしもし?』
「おい、なんで14日、来れないんだよ?」
『・・・なんでって・・・友達と約束入るかもしれないから・・・』
「入るかも?まだ入ってないんだろ?だったら、来いよ」
『何かあるの?その日』

何かあるの、だと?
ホワイト・デーだろうが!
俺一人で盛り上がってた訳か?小学生か、俺は?
とてつもなく脱力して、投げやりに言ってしまった。

「ああ、いいよ、来なくて、じゃあな」

電話を切った途端、あいつが言った言葉が頭に浮かぶ。


『私ばっかり、歳三さんを好きなんだもん!』


優勢を保っているとばかり思っていたが、ひょっとして、俺の方があいつの掌の上で踊らされてるんじゃないだろうか。
はあーっと溜息をついて、買ってきた品を眺める。

「俺からのプレゼントを欲しがる女なんて、いくらでもいるんだからな」

今、ここにいない相手に強がってみる。
絶対自分の方が、惚れてる度数が高いよなと思いながら、ふて寝を決め込んだ。










10日後のホワイト・デー。

残業を早く切り上げて帰宅すると、部屋に明かりが点いていた。
嬉しくて、アパートの階段を駆け上る・・・と、途中で思い直し、歩調を緩める。
優勢を保つ事は、重要だ。

「あれ?来ていたのか?」

部屋に入って、意外だという風を装う。

「・・・来いっていったの、歳三さんじゃない」

ちょっと不機嫌そうな顔。拗ねてる顔も可愛い・・・いや、そうじゃない。

「ああ、そんな事言ったな、ごめんごめん」

あくまで興味なさげに、余裕のある大人を演じる。

「忘れてたんなら、帰るよ」
「うわっ、ちょっと待った!」

咄嗟にそう叫んで、はっと気付いてあいつを見ると、勝ち誇ったような彼女の顔。
・・・やられた、と俺は思った。

「来て欲しかったんでしょ?」

くすくすと、意地悪い笑みを浮かべて、俺の腰に腕を回してくる。

「お前、どこでそういう駆け引き、覚えてくるんだよ・・・」
「歳三さんに太刀打ちする為に、私だってお勉強してるんだよ」
「んな勉強、しなくていい」

顔を近づけて、額同士を少し強めにぶつけた。

「いったーいい」
「大人をからかった罰」

もうー、と怒りながら、手で額をさする。
こいつ何でこんなに、何をしても可愛いんだろう、などと思う俺は、かなりヤバい。

「そんなに痛くないだろ?大げさだな。ほら、これで機嫌直せよ」

そう言ってコートのポケットから取り出したものを無造作に、密着している身体の間に投げ入れる。

「なに、これ?」
「開けてみれば」

彼女は箱を手に取り、身体を離してラッピングを解き始めた。
そして、目を瞠る。

「わあ・・・」

中から出てきたのは、小さなダイヤの付いた指輪。
信じられない、といった表情でそれを眺めるあいつの顔を満足げに見やって、俺はあいつの左手を取った。

「ほら」
「え?・・・え?」

箱から指輪を取り出し、あいつの左手に嵌めてやる。もちろん、薬指に。
自分の左手に収まった指輪を眺めているうちに、あいつの瞳が潤んできた。

「ちょ、ちょっと待て!何で、泣くんだよ!?」
「だって・・・」

そう言って、次の瞬間、勢い良く俺に抱きついてきた。

「嬉しい・・・すっごい嬉しい・・・」
「セイ・・・」

参った。
こんな風に喜んでくれるとは、思わなかった。
女に贈り物をした事なんて、数え切れない程あるが、こんなに困ったのは初めてだ。

こいつはいつも、俺を困らせる。
俺を夢中にさせて、困らせる。
俺を本気にさせて、困らせる。
予想もしない反応で、困らせる。
こいつはある意味、俺にとって「初めての女」なんだ。

「・・・私、歳三さんにチョコあげてないのに、こんなの貰っていいの?」

抱きついたまま、セイが俺を見上げてきた。

「いいさ、もっといいもん貰ったからな」

何が?という表情で見上げる彼女に、軽く口付ける。
彼女の左手を取って、指輪を眺める。

「これで、予約済みだ」

そう言うと、怪訝な表情で、俺の顔を見つめてきた。

「どうした?」
「予約って?」
「は?」
「予約って、何の予約?」
「いや、その・・・」
「ねえ、何を予約するの?」
「だから、その・・・そういう事だよ」
「何それ、全然わかんない〜」
「だから!お前を嫁さんにする予約だよ!!」

言った途端に自分でも赤面するのが分かって、ごまかす為に彼女の唇を塞いだ。
唇を離すと、満足げに笑うあいつと目が合って、俺はますます気恥ずかしい。

「じゃあ、予約されてあげるね」
「そりゃどーも」
「予約のキャンセルは受け付けないからね」
「そりゃ光栄」
「予約金は、3か月分でいいよ」

返答に窮していると、さきほど泣いたカラスはどこへやら、妖しいほどの笑みを浮かべて、追い討ちをかけてきた。

「もうキャンセルできないよ」

結局、こいつには逆らえない。
世界一惚れてる女を自分のものに出来るなら、3ヶ月分など安いものだと腹を決めて、もう一度彼女の唇を塞いだ。














『浅葱桜』の葵様より、ホワイトデーのフリーSSを頂戴しておりました。


葵様のセイちゃんってかわいいのですよね〜
歳が困るの、よくわかる気がします(笑)
きっと作者様の「かわいらしさ」が反映されているのですね(*^-^*)
セイちゃんに振り回される歳もかわいらしい…(爆


葵さん、今回も甘い二人のお話、どうもありがとうございました。
これからもよろしくお願いしますね。
















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