こんな日は、誰かに傍にいて欲しい。
震える指
千鶴様
パタン
誰かが部屋に入ってきた音がして、目が覚めた。
その音の方へと目をやると。
「・・・れ、なんでいるの・・・?」
こほ、と短く咳をすれば、額にそっと手が触れて。
「冷却シート、換えなきゃな。あぁ、起きるなって」
布団から起き上がろうとしたあたしの身体を優しく制した。
再び布団に埋もれたあたしの額からぬるくなったシートがはがされ、新しいシートが額に乗る。
ひんやりと、気持ちよかった。
「おふくろから学校に電話があってさ。ほら今日、お前の母さんとおふくろ、出かける予定だっただろ?」
問いかけに、コクリと頷く。
「で、親父さんの帰りも遅いってんで、誰もお前の世話が出来るヤツがいないから、俺が頼まれた」
あぁ、宿題やらプリントも持ってきてやったぜ。
冷却シートの箱を片付けながら、話し続ける。
「どうせ、お前のことだ。一人でも大丈夫だって言ったんだろ?」
「な、んで・・・」
わかるの?
「何年の付き合いだと思ってんだよ」
もう、14年になるんだぜ?
背中をこっちに向けたまま喋ってるから、どんな表情なのかは見えない。
でも、笑ってるのは確かみたい。
「親父は、ほっといても勝手にやってるから。書置きだけして、こっちに来た」
「そ・・・なんだ・・・」
掠れた声で返事をすれば、優しくふんわり笑う顔がそこにあって。
思わず、ドキッとした。
「しっかし、あれだよな」
「?」
「夏風邪は、バカしか引かねぇって言うのに」
「なっ・・・!」
優しかったはずの笑顔は、いつの間にかいつもの意地悪な笑い顔になっていて。
言い返そうとしたら、喉が痛かったことを思い出した。
「げほっげほっ」
「ほら、喋るんじゃねぇよ」
「けほっ。そうさせるのは、誰よ・・・!」
「ははっ、ワリィ」
そう言って笑いながら、「ほら、寝てろ」とポンポンと軽く頭を叩く。
ベッドサイドにあたしの机の椅子を持ってきて、座る。
背もたれに乗せた腕をあごの枕にして座るのは、いつもの癖。
「何か、食いたいもんあるか?」
その状態であたしの顔を覗き込んでくる。
あぁ。その顔は、昔から変わらないね。
「・・・も」
「ん?」
「もも・・・」
「桃缶か。お前、昔っから変わんねぇな」
くすくす笑う声が、頭の上から降ってくる。
「いいでしょ、別に・・・」
あたしは思わず、布団をかぶってプイッと背中をを向けてしまった。
「買って来るから、寝て待ってろよ」
あたしの背中にそう言葉を投げかけて、部屋を出て行った。
シン・・・
途端に静かになる部屋。
一人いるだけで、こんなに違うんだなぁ・・・。
そう思うと、急に寂しくなってきた。
何だか、あたし一人だけになったみたいで。
あたし一人だけが取り残されたみたいで。
急に、不安になった。
布団の中でうずくまる。
きゅうっと身体を丸くして、小さくなる。
それはまるで、お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんみたいに。
(早く、早く帰ってきてよ―)
心細くて、胸が痛くなる。
寂しくて、息苦しくて、気持ちが溺れそうになった。
そこに。
ガチャリ
「セイ」
歳が帰って来た。
「セイ、どうした?」
サイドテーブルにお皿を置く音がして、布団の向こうから声がする。
「ひどくなったのか?」
その言葉の一つ一つが、あたしの沈みかけた気持ちを浮上させる。
返事が出来ない。
口を開くと、何故か一緒に涙も出そうだった。
布団の中で、頭を横に振る。
「桃、買ってきた。食べれるか?」
どうやらちゃんと伝わったようで、ほっとした声になっていた。
零れそうになる涙を何とか堪えて、布団から頭を出した。
「うん・・・」
桃が入ったお皿を渡される。
炎症が起きている喉に、桃の果汁は少し沁みて痛くて。
それは、胸の痛みに似ていた。
「それ食い終わったら、薬飲んで寝ろ」
その言葉に、あたしは素直に頷いていて。
歳は満足そうな顔をしていた。
薬を飲んで、布団にもぐる。
早くも薬が効いてきたのか、それともまた熱が上がってきたのか。
それはよく分からないけど、ぼんやりしていたあたしは、子供みたいに歳に甘えてしまって。
上手く力が入らない手を、歳の方へ伸ばした。
「ん?」
頼りなく伸ばされるあたしの手を、歳は優しく握ってくれて。
あたしはそれに安心して、思っていた言葉がするりと零れ出た。
「ここに、いて・・・」
それだけ言うと、セイはもう眠りに落ちていて。
でも、俺の手の中の細い指は、しっかりと俺の指を掴んでいた。
「・・・ったく、仕方ねぇなぁ」
やっぱり、不安だったんだろうな。
大丈夫だと言っても、一人になるのが本当は嫌いなコイツのことだ。
俺が出て行った後、きっと不安になったに違ぇねぇんだ。
コイツが思ったことを素直に言うなんて、珍しいからな。
「いてやるよ。お前が安心して眠れるように、な」
眠っているセイにそう話しかけて、そっとその手を握り返した。
ただ素直に嬉しかった。
俺を頼りにしてくれることが。
俺を傍に求めたことが。
そして。
俺の手に触れたときに微かに震えていたコイツの指が。
どうしようもなく愛しく思えて。
眠るセイの頬にかかっている髪に触れる俺の指も。
少しだけ震えていた。
* * * あとがきのようなもの * * *
少しばかり遅くなりましたが、サイト開設のお祝いの品でございます。
拙堂の幼馴染の二人に出てきてもらいました。中学生の二人です。
セイちゃんには風邪を引いてもらいました。で、それを歳に看病してもらう、と。
ありきたりな設定ですが、ま、それは愛嬌ということで・・・。
気に入っていただければ幸いです。
これからの益々のご発展をお祈りしつつ、私からのお祝いの品とさせていただきます。

『月華堂』の千鶴様から、拙宅の開設祝いを頂戴しました。(*^▽^)
うっ…こちらはまだで申し訳ありません ><。
お忙しい合間の息抜きに書かれたそうですが、疲れを吹き飛ばすような甘〜い、
そしてとってもぴゅあ☆な二人のお話……
御馳走さまです!(笑)
熱がある時に“桃缶”を食べたくなる気持ち、とってもわかります。
ひんやりしていて甘くて、柔らかくて、気持ちいいですよね。思わず、じゅるると…(笑
そういえば子供の時は“ネク○ー”が好きだったなぁ、と思い出しました。
“指”もまたポイントですね。細くて長い指に色気を感じてしまうのは私だけではないはず(笑)
いや、どこにも「細くて長い」という描写はないのですが、
勝手に歳の指ならそうだろう、と思い込んでいます。(爆っ
千鶴様、お忙しい中、素敵な御品を届けてくださってどうもありがとうございました。
そしてこれからもサイト共々どうぞよろしくお願いいたします。m(__)m
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