「クリスマス」
葉乃様
「すみませ〜んっっ・・。飛行機がどうしても遅れてしまうそうなんですっ。
どうしたらいいでしょうっ・・土方さ〜ん(涙)」
「なっ・・んだとっ、遅れるって?!お前なんでまだそんなとこに居やがるんだっ!!」
「しょうがないじゃないですか!そもそもこんな時に行ってこいって行ったのは土方さんでしょうっ?」
「ああ、そうだ。言ったとも。だがな、俺だってこんな天気になるとは思わなかったんだっ!」
総司は今函館の空港にいる。
来年の新作ケーキのために支配人である土方に取材をしてくるように言われ、仕事を終えたまでは良かったのだが、
突然空港付近が吹雪になり、飛行機の発着が大幅に遅れているのである。
今日はクリスマスイブ、本来なら、予定どおりの飛行機でとうに店に帰り着き、
ケーキ店としては一番のかきいれ時に「patisserie mibu 」のケーキを売っていたはずなのである。
しかし・・・。
「あぁ!もういい。お前はとりあえず何としても帰って来い!こっちは俺が何とかする!」
「すみませ〜ん(涙)お願いします〜。」
『がちゃっ』
いささか乱暴に受話器を置くと土方はため息をつく。
「支配人・・沖田先輩、帰ってこれなくなっちゃったんですか?」
「あぁ、神谷。あっちは猛吹雪だとよ。函館だったら札幌や小樽よりは吹雪の確率も低いし、
いいだろうと思ってやったんだが、どうやら駄目だったようだ。
だれか総司の代わりに売り子ができる奴を探すしかないな。」
「そうですか〜。大変・・。私行きましょうか?」
「いや、お前は駄目だ・・。店のウェイトレスはお前しか居ないんだ。
平助だけじゃまわせねぇだろ。それにお前1人で夜の屋外に立たせるわけにもいかん。」
「patisserie mibu 」はtake outとeatin の両方が出来るケーキ店で、
店で注文をした客は隣にあるカフェでそれを食べることもできる。
従業員は全部で10人。
店長の近藤と支配人の土方、それにパティシエの井上と沖田、
パティシエもウェイターもこなす斎藤とウェイターの平助と大口の配達など、営業や受注をしている永倉と原田、
それに材料など仕入れの管理役を山南が担当している。
セイはそこでウェイトレスをしている。
学校の先輩だった沖田と兄の友人であった斎藤に誘われ、アルバイトで入ったのが始まりだった。
正式な社員として勤め始めてようやく一年になろうとしていた。
クリスマスイブにあたって、いつもの体制とは別に、ケーキの配達や、
街頭での販売に人員を裂かなくてはならない。
今年は取材に行った総司をパティシエではなく売り子として置くことにし、
斎藤にパティシエにまわってもらうことで販売の体制を整えたが、
土方が考えた策は、総司の遅刻によってあっけなく崩されたのであった。
「でも・・原田さんも、永倉さんも大口の注文の配達にまわってますし、
ケーキを作る井上さんも、近藤店長も、斎藤先輩も、沖田先輩が居ない分、
もう切り詰められない人数です。山南さんも個人宅の配達に行ってます。」
「そうだな・・・。って事は俺なのか?!俺が行くしかないって事なのかっ!」
改めて人員配置をセイに言われ、土方は愕然とする。
「そっ・・そんなこと、言われてもっ・・支配人だってお忙しいのはわかってます!
こうなったら、今年は売りに出るのは取りやめにした方がいいんじゃないですか・・?」
「何言ってんだ!ケーキ屋がクリスマスにケーキ売らねぇでどうすんだ。
仕方ねぇっ・・俺が行くしかねぇんなら、俺が行ってくる!!!」
「はっ・・はいっ!」
土方の迫力に思わず気おされるセイ。思わず持っていた服を握り締める。
「神谷・・お前・・その赤い服はなんだ?」
「あっ・・これ沖田先輩の着る予定だった服です。サンタさんの服着て売ることになってたから・・。」
「!」
「支配人が売ることになると、やっぱり着てもらえます・・?サイズはたぶん合うと思いますけど・・。」
「・・・。」
「ど・・どうします・・?」
もはやセイはびくびくと土方の反応を待っている。
「やってやろうじゃねぇか・・。」
そこには何に対してなのかめらめらと闘志を燃やす男がいた。
自分の身に振りかかった火の粉に完全に燃やされている。
「いっ・・いってらっしゃいませ!」
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「セイ、ノエルのセットはカフェオレだったか?こっちはあがったぞ。」
「はい、斎藤先輩!ありがとうございます!」
「神谷〜。それ俺が持ってくからこの注文やって〜!」
「はっ、はいっ。お願いしします藤堂さん。これは・・えーとブッシュ・ド・ノエルとオレンジペコ・・。」
さすが、クリスマスというべきか、店もカフェも混み具合は半端でなかった。
つぎからつぎへと注文がくる。
おそらく、ここでお茶を飲んでからまたどこかへと向かうのであろうカップルが入っては出て行くので回転も速い。
そんな中、セイは次々来る注文と格闘しながらも、予定外に真っ赤な服を着て出て行く羽目になった支配人のことを考えていた。
「支配人・・大丈夫かな・・。あのままで行ってたら、お客さん来ないんじゃないかな・・。」
セイが心配しているのは、土方の仕事ぶりではなく、別のことであった。
正確にはこれも仕事ぶりのうちに入るのだが、手際などについてではなく、
土方自身の「顔」のことなのである。
無論、土方はケーキ屋の支配人にしておくには惜しいくらいの美形である。
それはセイも認めている。女性の噂もあとを絶たない。
おそらく黙っているだけでも人目は惹く。
しかし、さっきセイが見た土方は突然降りかかる災難にめらめらと闘志を
燃やしている顔だったのである。
そしてそれはみる者が見れば「怖い」と思うであろう様相だったのである。
セイも正直「怖い」と思った。あの状態で店を開いて、果たして
ケーキを買おうと土方に近づける者がいるだろうか・・・?
「神谷〜。オレンジペコはいった?今度はカプチーノとチーズケーキお願い。
出来上がったら15番に持っていって〜。俺、ちょっと0番!」
「はっ、はいっ!!」
0番というのは店員間の言葉であり、0番はトイレである。
そうしてセイは、考え事をする余裕もなくなった。
急いでカプチーノをいれる。
「「ただいま〜。大口はこれで全部あがった〜。」」
「あっ!原田さん、永倉さん。お帰り〜お疲れさま〜。」
「おぅ、平助!こっちはどうだ?」
トイレから戻った平助が応える。
「原田さん〜ちょっと大変だよ〜。斎藤さんが今日はウェイターできないから、
俺と神谷だけなんだ。出来たらウェイターやって〜。俺の予備の服がロッカールームにあるから〜。」
「わかった!任せろ!」
原田はロッカールームへと走る。
「平助。俺は裏へ回る。無精ひげじゃちょっとでらんねぇだろ?」
「確かに〜。お願い永倉さん〜。」
「おぅ。」
そうして、助っ人が来たことでカフェもだいぶ落ち着きを取り戻すことができたのである。
ちょうど、夕食の時間帯に入ったこともあって、店内の雰囲気も落ち着いてきた。
このまま、あとは終了まで数時間、少しずつ商品も客も減っていくはずである。
「ふぅ〜。やっと落ち着いてきたね。疲れたろ?神谷。」
「いえ。大丈夫です藤堂さん。それにしてもようやくですね〜。
原田さん、永倉さん、ありがとうございました〜。」
「「おぅ。」」
「こっちもあがった。みんな、お疲れさま。」
近藤店長が厨房から出てくる。一足早く、作るべきケーキは全て作り終えたのだ。
あとは、山南の個人宅配達と、土方の店外販売、そして、店とカフェの閉店を待つばかりである。
「歳は、ほんとに行ったのか・・?神谷君。」
「えぇ、店長。なんだかめらめら燃えていました・・。あれじゃお客さん怯えます・・。」
「そうか・・売れてるんだろうか・・。ちょっと助っ人がいるかもしれないな・・。」
「あっ、私行きます!様子見てきます!」
「ええ〜。神谷行っちゃうの?神谷しか花はいなんだよ〜。」
「まぁまぁ、神谷君もさっきから働き詰めだ。ちょっと休憩をあげてやってくれ。
それで、見てこれたら、歳のとこにいってやってくれるかい?」
「はい、ありがとうございます!」
そうしてセイは皆に一礼をした後、ウェイトレスの制服のままコートだけを羽織り、店を出たのである。
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(支配人・・どこにいるんだろ・・。この辺だったはず・・。)
セイは店外販売の場所として確保してあるはずの場所へと向かう。
しかし、そこには土方はおろか、店の影も形もなかったのである。
(うそ・・ここでいいんだよね・・?何でないの?)
セイは地図を見直し、予期せぬ事態にうろたえる。
たまたま、近くに店を開いていた花屋の移動販売車に入り、
ケーキ屋を見なかったかとたずねる。
「あのぅ・・すみません・・。」
「はい、お待ちやしてってセイちゃん?どないしたん、店は?」
「里さん!里さんこそお店は?」
「うふふ。今日はこっち、移動販売車やねんvお店は若い子に任せたしv」
「そうなんだ〜。可愛い〜この販売車v」
里はセイの亡き兄の恋人で、今は山南の婚約者である。
いつもは「patisserie mibu 」に程近い場所で花屋を営んでいる。
クリスマスイブだから、と移動販売をしているらしい。
「おおきにvところでどないしたん?お店終わったん?」
「あっ、そうだ。お店は抜けてきたの、それでね、里さん、
この辺でケーキの販売している支配人見なかった?」
「支配人って・・土方はん?見ぃひんよ?」
「そっか〜。どこいっちゃったんだろ支配人。ケーキ売りに行ったはずなのに〜。」
「あっ・・待ってセイちゃん!
そういえばさっきあっちで人だかりが出来てたし、もしかしたら、土方はんかもしれんよ?」
「ありがとう!行ってみるね〜。」
「きぃつけや、セイちゃん〜。」
「も〜ほんとどこいっちゃったんだろ、支配人。。」
「お嬢さん、落としましたよ。」
「はっ・・?え・・?」
突然の声にセイは自分の回りに何が落ちたのかと振り返る。
ウェイトレスの格好にコートだ。ちょっと様子を見て帰るつもりだったため、持ち物は何もない。
何かを落とすはずがないのである。
声をかけてきた男を、怪訝な顔でみつめる。
「あの・・何も落としてません。見間違いでは?」
「いいえvあなたの笑顔が落ちましたv」
「はぁ?」
「ここで何してんの?何か探しもの?一緒に探してあげるから、ちょっと付き合ってv」
「なっ・・なんなんですかっ。ナンパなら他を当たってください!」
「おっ、勘がいいね〜。そうナンパ。だから付き合ってv」
「止めて下さい!ついてこないで!」
「ね〜。ちょっとだけさ、いいじゃんvその格好、ウェイトレスでしょ?
イブに仕事なんてお互いついてないよね〜。」
「一緒にしないでください!きゃっ・・。」
走り出そうとするセイの手を掴む男。ナンパでここまでされたことはない。
セイは声も出せなくなる。
「可愛いな〜、怯えちゃってv大丈夫だよ。ちょっとお茶するだけじゃない。いいとこ知らない?」
「それだったら、「patisserie mibu 」に行ったらいい。」
「そっか〜「patisserie mibu 」かあそこ美味しいよねvって!!!!」
突然背後から降りかかる低い声に男は驚いて振り返る。
「ほう・・来たことがあんのか?そりゃどうも(にやり)」
そこには意地悪げな笑みを浮かべているサンタクロースが一人。
「なっ・・お前なんだ?!何するんだっ・・あっ・・痛い痛いっ・・。」
サンタもとい、土方がセイの手を掴んでいた男の手をねじり上げる。
「しっ・・支配人!」
「よぉ、神谷。邪魔したか?(にやり)」
「しっ・・はいにっ・・っ・・ふぇっ・・ぅ・・くっ・・。」
「なっ・・なんで泣く神谷っ・・おぃっ・・。」
強がって、「邪魔です!私1人でも大丈夫でしたっ!」とでも言うかと思っていたら、
突然セイが泣き出したことに土方はうろたえる。
掴んでいた男の手を離し、セイに近づく。
「ふっ・・ぇぇっ・・こわっ・・かったんですっ・・。
支配人・・どこ探してもいないしっ・・ぇっ・・変な人は出てくるしっ・・
もっ・・ぇっく・・駄目かと思って・・。」
これまでに見たことがない位に泣きじゃくるセイを見て、
うろたえながらもその姿にふっと笑みをもらす。
「しょうがねぇなぁ・・。」
「えっ・・?」
ふわ・・と暖かい物に包まれるセイ。目の前が赤い。
セイは土方にすっぽり包まれていた。
「えっ・・ちょっ・・しっ・・。」
「もう大丈夫だ。怖いものなんかない。だから泣きやめ。」
気がつけば男はとっくに逃げていた。セイと土方の周りにはクリスマスの喧騒だけがあった。
「し・・はいにん・・?」
涙で濡れた目でセイは土方を見上げる。
「探させて悪かったな。とっくにケーキは売り終わったんだ。ちょっと昔の仲間に捉まってな。」
今まで見たことが無い穏やかな笑みにセイは恥かしくなって俯く。
「そう・・だったんですか・・。」
「あぁ。」
そんなセイの反応に土方もいつもとは違う感覚を覚える。
顔が熱くなっていっている気がする。どうしてこんなことになってしまったのか。それでも手が離せない。
その時であった。
「歳三〜さ〜ん♪やっとみつけたわ、うふふ逃げんじゃないわよv」
「げっ・・。やべぇ・・。」
「支配人?あの人誰ですか・・昔のお友達って・・。」
遠くから、きらびやかな衣装を身にまとい走ってくる・・・男。
夜の蝶・・・が低い声で、女言葉を無理矢理に使っている。
「昔の仲間が、いつの間にかおかまになってやがったんだよっ!神谷、逃げるぞっ!」
「はっ・・はいっ・・」
土方とセイは、さっき土方が近くに止めた車に急いで乗り込む。
ケーキの販売の為の道具はすべてしまわれている。
ケーキの販売は本当に終わっていたようである。
エンジンをかけ、車は走り出す。
昔の仲間はなんとかまけたようである・・・。
「支配人・・お疲れ様です。」
「あぁ・・神谷・・お前もな。」
さっきの気恥ずかしさはどこかへ消えていた。
いつもどおりの土方とセイ。土方は追いかけてきた昔の仲間にすこし感謝していた。
(伊東も役に立つこともあるもんだ・・。もう当分会いたくねぇが・・。)
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「おっかえり〜♪神谷、土方さん、お疲れさま〜♪」
「ただいま戻りました!遅くなってごめんなさい。」
「悪かった、ちょっと手間取っちまった。こっちは?平助、もう終わりか?」
「うん、ケーキ作りもカフェの方もおしまい。配達もみんな終わって、土方さんと神谷の帰ってくるのを待ってたんだ♪」
「「それは・・お待たせしました・・。」」
「ほんとだよ!2人で売ってて何してたの?こんな時間まで!」
時間はとうに閉店時間を過ぎ、もはや人がケーキを買う時間ではない。
セイがここを出て行ってからは、かなりの時間が過ぎていた。
「「うっ・・。」」
「そんなに売れなかったか?今年のケーキ・・。」
「いっ・・いやっ、違うんだ近藤さん。俺が1人で売ってた時点で、完売したんだ、だからケーキは好評だった・・。そのっ・・。」
「1人の時点でケーキ完売?!じゃあなんで帰りがこんなに遅いの?」
「「ぐっ・・。」」
「あ〜なんかあやしい・・2人とも・・顔真っ赤だよ・・?」
「なっ・・そんなことねぇっ・・ただっ俺がケーキを売り終わって、
店をたたんだあとにこいつが来ちまって、行き違いだったんだっ・・
それで、会うのに時間がかかって、その・・。なっ・・神谷!」
「はっ・・はい・・//////。」
急に話を振られたセイは慌てて土方の顔を見るが、それはさらに動揺を呼ぶだけであった。
顔を見た瞬間にさっき抱き寄せられたことが思い出される。
目が合った2人は顔を見たことを後悔する。
「何もない」と言いながら顔を赤らめる2人を訝しげな目つきで皆が見る。
「「「「なにがあった・・?」」」」
「「なっなんにもねぇよっ!(ありませんっ!)」」
「声まで一緒に出さなくても・・。」
「「//////・・・。」」
「たっだいま帰りましたぁ!」
『がちゃっ』
勢い良く店の戸が開く。その勢いのよさに店内の皆が振り返る。
「総司!」
土方の声が響く。
「おかえり〜大変だったね総司!」
「「函館はどうだった?」」
「お疲れさま、総司。大変だったね。」
「お帰り、総司。」
「沖田さん、お帰り。」
皆口々に総司に声をかけながら総司を囲む。
その動きに土方とセイは完全に出遅れてしまっていた。
「皆さんご迷惑をおかけしました〜。お疲れ様です。」
総司は照れたような笑みで皆の言葉に返事をする。
「おっ・・お帰りなさい!沖田先輩!」
ようやく口を挟むことの出来たセイが総司に声をかける。
「神谷さ〜んvただいま〜v大変だったでしょう?お疲れさまv」
「はっ・・はいv」
突然の総司の到着に今までの話題が吹っ飛んだように見えた。
が、それは総司の不満げな一言でまたも引き戻される。
「ところで・・どうして土方さんと神谷さんはそんなにくっついているんです?」
「「!!!」」
総司が立っている所から見れば、他の皆とセイと土方の2人が立っている位置は
どういうわけか少し離れていた。しかもさっきの皆の出迎えにも遅れを
とってしまっている。
いつもならば、真っ先に出迎えてくれるセイが土方の傍にいるのも、
総司にしてみれば違和感があったのである。
他の皆から見れば、さっき帰ってきたばかりの2人が近くにいて、
しかも散々からかわれたあとである、2人がそのままでそこにいても不思議は無かった。
しかし、総司は事情を知らない。
土方とセイにまたも嫌な汗が流れる。
「うん、総司。この2人ね。なんか怪しいんだよv」
いたずらっぽく平助が告げ口をする。
それに総司は応える。
「あやしい・・って、確かに・・。何があったんですか?神谷さん、土方さんに何かされたんですかっ!」
総司はセイに駆け寄ろうとする。
「なっ・・なんでそうなるんだっ!俺は何にもしちゃいねぇっ!」
あまりの言われ方に土方はとっさに総司を捕まえる。
「だって、土方さんの日頃の行いを見れば誰だってそう思います!
神谷さんが土方さんをどうにかできるわけ無いでしょうっ!
駄目ですよっ!神谷さんにまで手を出すなんてっ!」
「だから、そんなんじゃねぇって言ってんじゃねぇかっ!
大体神谷だって別にお前のもんでもないだろうっ!
神谷が誰とどうなろうがお前にかんけえねぇっ!違うかっ!」
「ぐっ・・。いいんですっ!可愛い後輩を大事にして何が悪いんですか!」
「そうだったよな。お前が連れてきたんだもんな神谷を!そんなに大事なら箱にでもしまっとけ!防虫剤入りのなっ!」
「ちょっ・・2人ともやめなよ。そこまで言い合うネタでもないから・・。」
平助が止めに入るが、2人はもう誰かの声を聞けるほど冷静ではない。
9歳も離れているとは思えない兄弟げんかのようである。
しかも話は違う方向へとそれている。
「大体ずるいですよっ!土方さんは!なんで近藤店長の一番の仲良しなんですかっ!」
「はぁ?何をいきなり言ってやがんだ。
そんなもん、お前が俺たちと知り合う前から俺たちは一緒に育ったようなもんだ!
それをお前が入ってきたからって何にもかわりゃしねぇだろがっ!
大体なんだいい歳して仲良しとか言ってんじゃねぇっ!おめえは一体いくつなんだっ!」
ぎゃんぎゃんとほえる2人はもう別世界に行っている。
「なんの話をしてるんだ二人とも・・。」
毎度のことでありながら近藤も呆れ顔である。
ここまで来ると誰も止めるものはいない。
この娘の他には・・。
「セイ・・・?」
さっきまでおろおろしていたセイがすうっっと息を吸い込んだのに気づく斎藤。
「いいかげんにしてくださいっ!」
高く、とても大きな声が店内に響く。
その大きな声に「しん・・。」と店内が静まり返る。
さっきまで吠えあっていた2人が急にぴたりと動きを止める。
「もういい加減にしてください。お2人とも・・。」
「あ・・あの・・?神谷さん・・?」
「神谷・・?」
「沖田先生も、ほかの皆さんもひどいです!支配人は私を助けてくれただけです!」
「え?助ける・・?」
「そうです。支配人のところに行った私が途中でナンパされて
無理やり連れて行かれそうになったのを助けてくれたんです!
それで、遅くなったんです!」
「そ・・そんなことがあって・・?」
全員が土方を見る。土方は視線をはねつけるかのようにそっぽを向く。
「はい!だから何にもないです。」
「じゃ、そういえば良かったのに〜。なんで黙っちゃうのさ〜。ごめんね、土方さん、神谷〜。」
「「「ごめんっ!」」」
「べっ・・べつに・・。」
急に謝られた土方はなおばつが悪そうにする。
無類の照れ屋は謝られなれていない・・。
「まったく、神谷さんも神谷さんですよ!
そんな可愛い格好で、外を歩いていれば寄ってくる人がいたって当たり前です!
なんで外に自分から行くなんて言ったんですか!」
「すみません・・。」
今度はセイが総司に怒られている。
それを見て今度は土方が口を開く。
「遅れた理由はそれだけじゃねぇんだ、総司。神谷は悪くない。」
「しっ・・しはいにっ・・。」
「俺が伊東に追っかけられてたからなんだよっ!」
セイの静止も聞かず、土方は苦々しげに吐き出す。
「伊東って・・あの・・?」
「あぁ、近藤さん。あいつ、もう完全に男じゃなくなっていた。
ケーキが全部売れた所にあいつに見つかって、とにかく逃げ回っているうちに時間が経っちまった。
そこに神谷が来て、ナンパしてた奴もたしかにいたが、それ以上に伊東から逃げ回っているのに時間が経っちまったんだ・・。」
土方の話を皆が黙って聞いている。唇を噛み締めたり、手をぐっと握っているものもいる。
皆が俯く・・。
「まぁ、そういうわけだ。俺はそんなばかげたこと言いたくも無かったし、
神谷もそれがわかってたから言わないでいたんだろう。な、神谷?」
「えっ、あっ・・はい!」
セイは慌てて返事をする。聞いていなかったわけではないが、皆の様子が気になるのである。
そこまで、神妙にならなくても・・。
「だから、もういいだろ、これで。何にもねぇよ、総司。」
「・・。」
「おい・・?」
土方も皆の異変に気づく。神妙な面持ち・・それは何かを耐えているようにも見える・・。
「ぷっ・・。」
「?!」
「「「「「「あっははははははっ〜」」」」」
「なっ。・・なんだよっ!」
全員が腹を抱えて笑っていた。皆笑いをこらえていたのである。
セイと土方は皆の態度の理由を今知った。
「ぷくく・・だって土方さんおかしすぎますよ。
うくく・・伊東さんに追っかけられてたなんて。あはははっ・・。
お腹いたい・・。」
「あぁ、悪かったな!追っかけられてたよ。
それもこれも、お前が函館から帰ってこねぇからじゃねぇかっ!」
「あははははっ・・ごめんなさい〜。
でも・・そんな風に予定が変わって出会うことになったなんて、もうそれは・・きっと”運命”なんですよv
あははっははっ・・・。」
「総司!」
『ごちんっ』
「いった〜い・・・。土方さんひどい・・神谷さ〜ん・・。」
「今のは沖田先輩が悪いです!知りませんっ。」
「そんな〜。」
「まぁまぁ・・みんな。もう夜も遅い。ここで軽く夜食を取って、明日に備えよう!みんなお疲れさま!」
ひとしきり笑った一同に、近藤と井上が食事を運んでくる。
明日はクリスマス。イブほどではないにしてもケーキ店は大忙しだ。
皆めいめい食事を取り、帰っていったのであった・・。
********************************
「神谷さんも今日はお疲れさまでしたね。」
「いえ、沖田先輩こそ・・遠くから帰っていらして大変でしたね。」
セイと総司は実は同じアパートの同じ階に住んでいた。
といっても隣の隣というご近所さんである。
当然、帰る方向も同じである。
「土方さんには悪いことしちゃったなぁ・・。」
「そうですよ〜。あの時支配人が来てくれなかったらどうなっていたか・・。」
「えぇ。怖かったでしょう?だいじょぶですか・・?」
「はい。大丈夫ですv」
にっこりと微笑むセイを見て、総司はため息をつく。
「神谷さんは自分が可愛いことをほんとに自覚してませんね・・。」
「えっ?」
「なんでもありませんよvこれからは気をつけて下さいねv」
「はい!」
「そうだ!神谷さん、手を出してくださいv」
「?なんですか・・?」
「いいから。」
「はい・・。」
言われるがままに手を出すセイ。
総司はそこへ手のひらにちょうど乗るくらいの小さなクマのぬいぐるみを置く。
「わぁ、可愛いvvv」
「クリスマスプレゼントですv函館で見つけたんです。中はポプリだそうですよv」
「ありがとうございます!嬉しいv」
「ちゃんと持っててくださいねv悪い虫がつかないように・・。」
「えっ?」
「いいえ。こっちのことですv」
「・・・?さっきから沖田先生の声、急に小さくなるから聞こえませんよ〜。」
不満げに頬を膨らますセイ。
それを総司は目を細めて見ている。
「そうですか?やだなぁ神谷さん、耳が遠くなったんじゃないですか?」
「なっ・・そんなことないですっ・・。もうっ!」
「ふふふvさて、もう残り少ない時間ですけど、お互いゆっくり休みましょvまた明日v」
「はい!おやすみなさい、沖田先輩!」
「おやすみなさい、神谷さんv」
(サンタさんは、うちにも来るかな・・。でも神谷さんが入りきるような大きな靴下売ってないですもんね・・。
作るしか、無いかな〜。)

バレンタインのフリー小説と一緒に戴いて参りました。
「patisserie mibu 」シリーズ最初のお話です。
クリスマスにぴったりの設定ですよね、ケーキ屋さんだなんて(^^)
それぞれの役割も嵌っていて、すんなりと読ませていただきましたvv
それにしても売り子に立った歳……ケーキ飛ぶように売れたのでしょうねぇ。(笑)
かっしーの意外な登場にも笑えましたし、葉乃さまの本領発揮!というお話で大好きですvv
ありがとうございましたm(__)m
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