「ヘンゼルとグレーテルのお話って知ってる?」
「あぁ、あのパンを目印にして・・。」
「・・そっちが思いつく人ってすごく少ないと思うけど・・。」
「じゃあ、なんだよ?」
「お菓子の家とか・・。」
「あぁ・・。あの話、最後どうなるんだっけ?」
「・・そういうえば、どうなるんだっけ・・?」
「Happy Ending?」
葉乃様
「もう〜急に来たかと思えば何なんですか?人の本、片っ端から見て〜。」
「いいから、読ませろ、そして俺に教えろ!」
「それが、人に物を頼む態度ですかねぇ・・。」
突然うちにやってきたと思ったら、片っ端から自分の愛読書たちを読み漁る歳三に、総司は深いため息をつく。
この人は料理に興味をしめしたことなど今まであっただろうか・・?
「総司、これ、これの作り方は?」
総司の愛読書、もとい1人暮らしの男のものとは思えない量の料理書の中から、
1ページを選び、歳三が指差す。
「・・豚肉のしょうが焼き?まぁ、簡単な方ですけど・・。」
「けど・・?」
「神谷さんに作ってあげるんでしょ?これじゃぁいくらなんでも・・。」
「・・確かに・・。じゃあこれは?」
「さばの塩焼き?・・臭みとるの大変なんですよ?それに今はさばの旬じゃありません。」
「・・・。じゃあどれならいいんだ?!」
半ば逆ギレ混じりで質問をする歳三に総司は、また1つため息をつく。
必死すぎて、少し笑えてくるのを堪えながら・・・。
料理書を読み漁る男、土方歳三と、その料理書の所有者、沖田総司は幼馴染である。
といっても歳三が9歳年上、子供の頃は泣き虫だった総司をよくかばってやっていた。
総司にとっては兄のような存在でもある。
その性格も良く知っているし、態度の下に隠された部分も良く知っている。
だからこそ、こんな風に理不尽なことをされても、笑っていられるのであるが・・。
ともかく、そんな歳三が今まで興味を持っていないどころか、総司が趣味としている
ことさえも、「男のくせに。」と見ていたはずの料理を知りたいとこんなことを
しているのにはわけがある。
事の発端は、昨日の夜・・。
「じゃん!心理テスト〜。」
「は・・?」
にこにこと笑みを浮かべ、雑誌を目の前に開く。
いつものように、歳三の部屋でくつろいでいたセイが、
急に言い出したことに、歳三は目を丸くする。
「心理テスト。」
「・・だから、どうしたんだ急に。」
「雑誌に載ってたの。一緒にやろ?」
「・・・。」
「だめ?」
「・・別にいいけどよ・・。」
小首を傾げ、そんな目で見られたら、冗談でも嫌とは言えない。
この娘はいつの間にこんな技を覚えてくるのだろう・・。
そんなことを内心で思いながら、セイの広げた雑誌を見るために、
もたれていたソファから身を起こすと、絨毯に座っているセイの隣に移る。
「で・・?」
『あなたは魔法使いです。1つだけ恋人の願いをかなえられるとしたら、何を叶えてあげますか?』
「歳三さんは何を叶えて欲しい?」
「・・それを俺が言ったら、心理テストにならないんじゃないか?」
「・・そっか。う〜ん・・。魔法で叶えられるようなこと・・。」
「・・・ねぇな・・。」
「んもうっ・・夢がない!何かないの・・?」
「ねぇよ。望んでることはあっても、それを魔法で叶えるのは嫌だ。」
「・・望んでること?何・・?」
「それは教えられないなぁ・・。」
「何で?」
「何でも。」
「けち・・。」
「けちで結構。」
(・・・言えるわけないだろ。)
歳三の胸中の言葉は聞こえるはずもなく、セイは拗ねたように唇を尖らしている。
はぐらかすかの様に、歳三が聞き返す。
「・・お前が今叶えてほしいことって何だ?」
「う〜ん。そうだなぁ・・。」
「魔法使えないぞ、俺は。」
夢もない言い方で、そんなことを言いながらも、内心はセイの望みが気になってしょうがない。
真剣に悩む、セイの顔を覗き込み、その答えを待つ。
思いついたのか、セイが顔を上げる。
「・・・手料理!歳三さんの手料理が食べたい!」
「はぁ?!」
さっきの心理テストといい、今日はこんな声ばかりを上げている。
そういう日なのか・・?
そんな歳三に構うことなく、セイは嬉しそうに言葉を続ける。
「歳三さんに料理作って欲しい!これなら魔法じゃなくても大丈夫でしょ?」
「そりゃ・・そうだが・・。でもな・・。」
「決まり♪歳三さんの手料理〜♪」
「おっ・・おいっ・・。」
「叶えてやる」と言った覚えはないが、セイの中ではそういうことになったらしい。
言いよどむ歳三に気づくことなく、話を進めてしまう。
嬉しそうにクッションを抱えて笑うセイに、今更「料理したことがない」と言えなくなった
歳三の脳裏に浮かんだのが・・総司だったのだ。
・・・そうして今に至る。
「・・・って土方さんは、なんで焼き物ばっかりなんでしょうねぇ・・。
煮物とかでもいいんじゃないですか?その方がちょっと得意な人っぽいし。」
「・・煮物?」
「えぇ。肉じゃがとか・・。」
「それは・・駄目だ。肉じゃがはあいつの得意料理だ・・。」
「そんなに美味しいんですか?」
「・・あぁ。」
そういいながら、少し照れたように笑っていることに、歳三は気づいているのだろうか?
総司はまた1つため息をついた。
「・・まったくやってられませんね。教えるのやめましょう。」
「待て、総司!」
慌てて、総司を引き止める。
振り返った総司がにやりと笑う。
「沖田先生、教えてくださいでしょう?」
「沖田先生・・。」
「はい?」
「お・・教えてください・・。」
「はい、よく出来ましたv」
にこにこと笑う総司に「いつか覚えてろ」と小さくつぶやく。
自分じゃどうにもできそうにない以上、今はとにかくこの男にすがるしかない。
「じゃあ、これとこれとこれにしましょうか?」
「・・・こんなに作るのか?」
「いやならいいんだよ、土方君。」
「・・いえ、お願いします。」
そうして、沖田先生の猛特訓は始まったのである。
「そこ、洗い物もしながらじゃないと、シンクがいっぱいになるでしょうっ?!」
「くっ・・・。」
「違う!何度言えばわかるんですかっ・・!」
「・・ちくしょう・・。」
「なんですか?」
「・・いえ・・。」
そして、2日後・・・。
「まぁ、これならOKでしょう♪神谷さんも果報者だなぁ〜♪」
総司の言葉にほっと胸をなでおろす歳三。
この2日の修羅場を思い出す。
(・・・普段食ってるものが・・こんなに大変な作業の産物だったとは・・。)
「ありがとな、総司。」
「どういたしまして。健闘を祈ります〜♪」
そうして・・・。
『とんとんとんとん・・』
「すごい・・。歳三さん、料理得意だったの?」
「まぁな。」
「すご〜い。私よりずっとずっと手際いい!」
「・・そんなことねぇよ。」
目をきらきらさせながらその作業を見ているセイに、
歳三は少し照れくさそうに返事をする。
喋りながらの作業で、ここまでできるようになったのは、総司の指導の賜物だろう。
「できた。」
「わぁ〜。」
鮮やかな、作業に魅入っているうちに、形をなす食材たち。
もともと何においても器用なこの男、しっかりと教えられれば、吸収も早いのだろう。
テーブルには御飯に味噌汁、油揚げと小松菜の煮浸し、鯵の塩焼き、炒り豆腐。
彩りや食材の選び方、さすが料理好きの総司が選んだだけの事はある。
出来上がりの様子を改めて見るにつけ、総司に頼んでよかったと、歳三は思った。
「すごい!歳三さん、すごい!」
きらきらと目を輝かせている目の前の彼女から思わず視線をはずす。
「そんなことねぇって・・。」
「歳三さん!これから、ご飯作るの交代制にしよう!」
「・・それは嫌だ。」
「どうして?こんなに上手いのに?」
「そんなの食ってみなきゃわかんねぇだろ!ほら、冷めるぞ?」
「はぁい。」
何とかはぐらかして、彼女を食卓につかせる。
「いただきまぁす♪」
「どうぞ。」
箸を取り、味噌汁を一口、ご飯の炊き上がりも上々。
油揚げはしっかり味を含んでいて、小松菜も色鮮やか。
「「・・美味しい・・。」」
「・・歳三さん?」
「はっ・・いや、その、これぐらいどうってことねぇよ。」
「そんなことない!すごく美味しいもの。ありがとう。」
にっこり微笑むセイに、歳三は思わず微笑み返す。
作ってよかったと心底思う。
この顔が見られるなら、食事をたまに作ってあげるのもいいかもしれない。
ほっこり焼きあがった鯵、少し辛めの炒り豆腐、鷹のつめが目に鮮やか。
彼女はご満悦だ。
自分で作ったものが、こんな風に彼女を幸せに出来るとは思ってもいなかった。
(くせになりそうだな・・。)
そんなこと彼女に言えば、「もっと作って」とせがまれるだろう。
でも、食べる側にまわる幸せにはもっと味を占めている。
(たまに、そう、ごくたまになら、いいかもな。)
誰にも聞かれていない心の声を慌てて修正する。
そんなことをしている目の前で、彼女は食事を終えた。
「ふぅ、ごちそうさま!美味しかったです。」
「お粗末様でした。」
幸せそうな彼女を見て、ふと未来がよぎる。
(まぁ、待て。落ち着け、俺。)
彼女はまだ17歳。もちろん結婚できる歳ではあるが、まだ若いことには変わりない。
そんな思いをはぐらかすかのようにして、歳三も食事を終える。
・・・そんな未来もあるかもしれない。
「そうだ、セイ。もう1つ。」
「え?」
「デザートだ。」
「デザートもあるの?!」
「あぁ。」
冷蔵庫に入れておいたものを取り出す。
白玉に赤えんどうと黒蜜。
シンプルだが、それはセイの目をまた、輝かせる。
「わぁ〜。」
「ほらよ。」
「ありがとう♪」
受取るとその容器を眺め、そして、一口、口に入れる。
「美味しい。」
「それは良かった。」
「・・ねぇ。歳三さん。」
「ん?」
「歳三さんのはないの?」
「俺はいいんだ。」
「そうなの?」
「そうなの。」
「ふぅん・・。」
不思議がりながらも最後の一口を食べ終える。
「終わったか?」
「うん。」
「それじゃ、よこせ。洗い物してくる。」
「え?いいよ、洗い物くらい私が・・。」
「いや、ここまでが仕事。」
「じゃぁ、お言葉に甘えて・・。」
「あぁ、そうだセイ。」
「何?」
「馬鹿!」
そっと耳打ちする歳三に、セイは顔を赤らめ抗議する。
「さぁ、それはどっちかな?」
言われたセイに比べ、歳三は嬉しそうににやりと笑う。
「私じゃないもんっ・・歳三さんだもんっ・・。」
「お菓子につられたグレーテルの方が悪いんだ。」
「なっ・・。」
言い返すこともできないまま、口をパクパクとするセイを置き去りにして
キッチンへと向かう。
笑いを堪えながら、洗い物をする。
ほんとに可愛い、きっと一生やめられない楽しみだろう。
『グレーテルはおなかいっぱいに美味しいものを食べさせてもらった後どうなったか知ってるか?
魔法使いに食われちまうんだ・・。・・・覚悟しとけ?』
(・・どうしよう・・。)
楽しそうに洗物をする歳三の後ろ姿を見ながら、次にくる出来事に、
鼓動が早くなっていくのを感じるセイであった・・。
Happy Ending?
********************************
現代版、歳セイです。
弐萬打御礼第1弾FDLとして、アンケートにご協力いただいたお題「あなたは歳です。
セイちゃんに料理を作ってあげるとしたら?」の一番多かった回答「一汁三菜の和食」
を基にお話を作ってみました。
ヘンゼルとグレーテル、本当は太らされて食べられそうになってしまうのは
お兄さんのヘンゼルの方です。しかも、最後は魔女をかまどに押し込んで(ひどい)
兄妹は無事に家路へとたどり着きます。
しかし、歳とセイちゃんは最後をしっかりと知らないんですよ(笑)
だからこんなことに・・・(おい)
美味しいものをたくさん食べたセイちゃん、
彼女の運命やいかに?!(笑)
この度は弐萬打ありがとうございました。
このSSは参萬打達成までの期間、FDLとさせて頂きます。
著作権は放棄していませんが、どうぞお持ち帰りいただければ幸いですv
葉乃

『光葉庵』の葉乃さまから、弐萬打御礼フリー小説を戴いて参りました。
どうして葉乃さまが書かれる歳というのは、こう愛嬌があるのでしょうね。
かわいい、かわいいセイちゃんの為に、総司に頭を下げて料理を習うなんて(*^-^*)
歳の手さばきに「すご〜いvv」と御目目をきらきらさせて感心するセイちゃん…。
「すごい」「美味しい」の言葉にすっかり気をよくして、(くせになりそうだ)(たまになら、いいかもな)と思ってしまう歳。
流石だわ、セイちゃん。
既に男の操縦術を心得ているのね(笑)
私も見習わないと…などと思ってしまいました。^_^;
しかし、そこで終わらないのが葉乃さま。
ヘンゼルとグレーテルのお話が最後にはとんでもないことに…(笑)
最後の最後にとびきり甘いお話を用意される葉乃さまに感服いたしました(^^)
葉乃さま、この度は、弐萬打おめでとうございましたm(__)m
これからも素敵な御品で私達を甘〜い気分にさせてくださいねvv
― 《頂戴品》のページへはプラウザを閉じてお戻りください。 ―