HANABI
こなつ様
花火も終盤――赤と黄色と金と青。鮮やかな花が夜空に散っては消えていった。
見上げて見惚れて、しまいには「きれい」とだと呟くことさえ無意味に思えて、ただ無言で食い入るように夜空を見つめるだけだった。
ふっと現実がゆっくりと遠のいていく。そんな錯覚さえ感じられた。
引き止めたのは、不意に触れた指先。大げさでなく、その瞬間無意識の内に息を止めた。
びくり、と震えてしまった身体、彼女に気づかれてしまっただろうか。
ゆっくりと、見上げた夜空から移した視線の先、彼女は何食わぬ顔で枝垂れ柳に見入っている。
金と赤の光に彼女の横顔を照らされていた。彼女は自分の視線には何も気付かず様子の知らん顔だ。
たしかにさっきセイの手に触れたというのに――・・・。
どうしてだろう。手を握ることなんてはいつもしているのに、今日は手に触れただけで、動揺が走った。
長いまつげ。くっきりとした二重瞼。見慣れたはずのセイの横顔。
……どうしたのだろう?
総司は、行きかう人々の話声よりも自分の心臓の音がうるさく感じられた。
そして、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
だけど、今だけは、指先から伝わる彼女の体温に酔っていたい。そんな気持ちになった。
となりでセイは夜空に散っては咲く金の花に夢中になっていた。
最初の頃は一つ上がるたびに歓声を上げて「きれい!」を連発していたのだが、終わりに近づくころにはどうかしたのかと心配になるほど
しんと黙り込んで、ただ一心に空を見上げている。
横顔は、とても真剣で、だけど、どこか頼りない。
彼女が夢中なのは目の前の花火。総司がこんなに横顔に見惚れていても、気づいていない。
白い肌が汗ばんで、気を抜けばすぐにでも抱き寄せてしまいたくなる。
長いまつげはきれいな円を描いていて、濡れたような唇。鮮やかな色彩を瞳に映して光がきらきらと踊ってる。
この花火、一体いつ終わってしまうんだろう。
終わってしまったら、それは同時にきっとこの夢は覚めてしまう。
終わらないで――ぴくり、と彼女の手に捕まえられたまま、自分の指先が震えてしまうのを止められなかった。
彼女の気配。自分を振り向く気配。そうして、彼女が、私を見てる――
痛いほど、視線を感じた。
心臓が痛い。金と赤と緑の光が無意味に散って消えていく。きれいなのに。見たいのに。
ひゅるるるる、と花火が上がっていく音、どん、と弾ける音。自分の心臓の音と重なって、押し寄せてくる。
―一体どうしたというのだろう。
風が動く。ふと彼女が動く気配。離れていくのかと思った指先に力が込められる。
そうして、ただ触れ合うだけだった手が握られた。
――神谷さん?
手を握られた――ただそれだけなのに、あんなにうるさかった花火の音がすうっと遠のいていった。自分の心臓の音さえも、止まったような
気がした。
「また、来年も一緒に花火が見られたらいいですね」
セイは、頬を揺らしてそう言った。
どん、と音がして、また一つ大きな花火が上がる。ゆっくりとこちらを振り向く彼女の横顔を緑と青の光が彩った。
「そうですね。ずっと一緒に毎年見ていられたらいいですね」
そう言ったけれど、途中花火の音にかき消された。
けれど、伝わっている。きっと彼女には伝わっている。そう思った。
金と赤の光に照らされて彼女の横顔を見つめながら、ぐっと握り合う手の力を強めた。
<終わり>なのだ

『がらくたTreasureBox』のこなつ様から素敵な暑中見舞いを戴きました。
花火…綺麗だけれど一瞬の輝き。
じっと見つめるセイちゃんもきっといろいろなことを思っているのでしょうね
そしてそんなセイちゃんを見つめている総司は…
多分セイちゃんのことで頭が一杯なのでしょう(笑)
ちょっと触れたりする手、というのもドキドキします。
ぱっとしっかり握ってしまうよりドキドキするかもしれません。
そんなドキドキ真っ最中の総司の手をセイちゃんがぐっと…。
微笑ましい二人の関係を象徴しているようで悦でした(*^-^*)
こなつ様、素敵なお話、どうもありがとうございました。m(__)m
こちらこそ「企画」を含めて今後ともよろしくお願いいたします。
― 《頂戴品》のページへはプラウザを閉じてお戻りください。 ―