想 い
鋼雅 暁様
総司は倉の入り口からそっと中を窺った。
薄暗い中で、小さな影が一つきり、ちょこまかと動いている。
(神谷さん……)
今までの総司ならば、躊躇いもなくセイの傍へ行き、仕事を手伝っただろう。
(あんなこと、言わなければ良かったですよ……)
つい数日前、総司はセイに向かって、いい加減に私から離れなさい、男でしょう、などと散々御託を並べた。
その挙句、冷たく突き放してしまった。
それ以来、セイは本当に総司に近寄らなくなった。
必要最低限の会話しかしないし、あの明るい笑みも、総司に向けてはくれない。
(本当に私は何をしているのでしょうね)
自分からセイを突き放しておきながら、セイが傍に居ないことが酷く寂しい。
あまりの寂しさに、暇さえあればセイの姿を探し、尾行する始末だ。
さらに他の隊士と仲良くしている姿を見ようものなら、味わったことのない怒りや悔しさがこみ上げてくる。
やり切れず、土方にぽろっと洩らしてみたところ、嫉妬だ、と教えられた。
嫉妬に狂うほど愛している女なら、奪ってしまえ、とも土方は言った。
(やっぱり、私は神谷さんを愛しているんでしょうかねぇ……)
ようやく、答えを導き出したものの、どうやってセイとの距離を縮めればよいのか、わからない。
しかも、二人の距離を広げたのは、紛れもなく、自分だ。
「いたっ……」
ふいに、小さな叫びが聞こえ、総司は我に返り、薄闇に目を凝らした。どうやら、彼女は指を怪我したらしい。
ぺろっと、指を舐めている。
だが、それだけでは血は止まらなかったのか、片手で懐を探り、手ぬぐいを出した。
が、上手く裂けないらしい。
「んーっ……」
必死な顔をして、手ぬぐいを裂こうとするセイの唇から、ふっと手ぬぐいが取り去られた。
「頑張りすぎですよ、神谷さん」
「あ、沖田先生」
「結構深そうですね」
セイの手は総司の掌のなかにすっぽり納まるほど、華奢だ。
(こんな華奢な手で、刀を振り回してるんですね、貴女は……)
突如、セイの頬に朱が差した。
総司が、セイの傷口を舐めたのだ。
「お、沖田先生」
驚くセイを抱き寄せ、総司は一つため息を吐いた。やっぱりこの娘は、誰にも渡せない、と。
「消毒、ですよ」
耳元で囁かれて、セイの心臓は早鐘を打つ。
「神谷さんの心臓の音、すごい」
真っ赤になって体を離そうともがくセイだが、総司は、ますます腕に力を籠めるのみだ。
(このまま、神谷さんを女子に戻してしまえたら、どんなに楽なことか……)
「沖田……先生?」
もがくのを止めたセイが、下から不思議そうな瞳で総司を見上げてくる。
「ごめんなさい、神谷さん」
「え?」
「貴女を、もう手放したりはしません。あ、でも、貴女が嫌だと言うなら、話は別ですが……」
セイは総司の言葉が理解できなかったのか、曖昧な笑みを浮かべた。
その表情は年頃の娘のそれで、総司は激しく動揺した。
セイの、真っ直ぐな瞳で、総司の心の、何かが外れた。
(いざとなると、どうすればいいか、わかるものなんですね、土方さん)
総司は素早く、何かを言いかけたセイの唇を己のそれで塞いだ。
ようやく、総司がセイの唇を解放したとき、セイは怒りとも恐怖ともつかない表情で、総司の腕の中に居た。
「どうして……」
「そんなの決まっているでしょう、あなたを愛しているからですよ」
「清三郎も、セイも、沖田先生をお慕いしています。沖田先生は、どっちの想いに応えて下さるおつもりなんですか」
総司は躊躇うことなく言った。
「どちらも愛していますよ。清三郎だろうが、セイだろうが、神谷さんであることに変わりはないですからね……って、どうして泣くんです?」
総司は慌てた。セイは睨みながら泣くという、器用な真似をしている。
「そ、そんなに私のこと、嫌いなんですか?」
そうだとしたら、こちらが泣きたい。
「急に冷たく突き放したと思ったら、いきなり愛している、だなんて!! 信じられますか、そんなことが! だいたい沖田先生は勝手すぎます! 私がどれだけ、辛かったか……」
泣きながら、ぽかぽか、と総司の胸を打つセイはまるで頑是無い子供のよう。
(これだから、可愛くて愛しくて……手放せないんですよね)
「神谷さん、可愛い」
「か、か、可愛いって、私は怒ってるんですよ!」
「はいはい」
ぎゅ、と抱きしめられ、セイはますます動揺する。
更に、ちゅ、と音を立てて唇を吸われ、彼女はますます混乱に陥った。
「あはは、貴女って人は、面白いですねぇ!」
「もうっ! 巡察までに、倉を片付けないといけないんですっ」
「まだ大丈夫ですよ」
一つ台詞を言うたびに、唇を吸われ、とうとう、総司の唇がセイの胸元まで、降りた。
「な、何するんですか!」
「いいじゃないですか、ふふ、やっぱり可愛い」
「よ、よくないです! 隊務中ですよ、沖田先生!」
「知ってますよ?」
倉の中に、セイの怨み辛みと総司の笑い声が響き渡った。
総司とセイを呼びに来て、倉の外からそこを聞いた、一番隊隊士たちは、一様に赤面した。
「どうする、沖田先生と神谷抜きで、巡察いくか?」
「俺、当分あの二人を直視できないよ……」
「あぁ、中ではきっと、沖田先生と神谷が……」
この後の、一番隊の巡察が滅茶苦茶だったのはいうまでもない。

『河辺の家』の鋼雅 暁様から、弐萬打御礼のフリーSSを戴いて参りました。
甘い二人につい頬が緩んでしまいますvv
二人を呼びに来た隊士には本当に同情してしまいますよねぇ…。
彼等の頭の中は妄想グルグルだったことでしょうに(爆っ
鋼雅様、弐萬打おめでとうございます♪
そして、これからもよろしくお願いいたします。m(__)m
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