「どっちもどっちでしょ?」
                        まるる様




 




 もうすぐ京の町にも夏がやってくる。

 そんなある日。



 『パチリ』と音が出るような感じで、セイは目を開けた。

 いつもより早く起き上がる。

 周りの隊士はもちろん。隣にいる総司もまだ夢の中。

 総司の幸せそうな、悪く言えばマヌケな寝顔を見て、ふふふと笑うと。

 セイは誰も起こさぬよう気をつけながら部屋を出た。

 行き先は厨。 早朝なので賄もいない。

「よし!」

 セイは自分に気合をいれて、火を起こし、料理を作り出した。

 

 本日は一番隊は非番の日。

 以前からの約束していた『一日中の秘密の特訓』である。

 つ・ま・り。

 一日中。総司と一緒にいれるという、セイにとって、すっごい嬉しい日なのだ。

 そうして、はりきってお弁当を作っているわけで。

「できた!!」

 数種類の料理を、飾りよく盛り付けた弁当を満足気に見る。

 セイは笑みを浮かべながら、弁当を風呂敷に包み。

 総司を起こしに行った。



 早朝から起こされ、用意をさせられた総司だが。

 朱雀野に着き、朝も早くから稽古をすれば、どんどんと調子が上がってくる。

「ほら!腕に気をとられすぎ!小柄の握りがなってない!」

 罵声と共に、神谷流・稽古は熱く、激しく続く。

 夢中になって総司に向かうセイ。

 それを軽々とかわしながらも、日々成長していくセイを感じ、総司は嬉しくてたまらない。

 蹴り飛ばし、セイの体が地面に伏せ倒れる。

「次はどうしますか?」

 すぐに立ち上がると思った総司だが、セイは立たずにそのまま素早く総司の足の甲に小柄を狙う。

 これには総司も驚いた。慌てて避けそのまま蹴りを出すが、素早くそれを避け、間を取り立ち上がり

総司を睨みつけるセイ。

「足の甲を狙うのはいいです。しかし、至近距離すぎますし小柄がない場合はあまり意味がない。上か

 ら刀を振り落とされたら終わりです」

 ニヤリと笑う総司。楽しい。まだまだ無駄な部分がある。それでもあらゆる場面を想定し、神谷流を

考えていくのは楽しい。

 セイは楽しくも何もない。 いかに目の前の総司を倒すかで頭がいっぱいだ。

 その分、体は軽くなる。どんどん早く、素早く動ける体。もともと小さい体。反射神経もいい。

 武士に対し、どこまで神谷流でやっていけるか?

 先は分からないが、二人は懸命に稽古をした。



 それは二人を夢中にさせていった。



 朱雀野の森の頭上から強い陽が射す。

 はぁはぁと荒い息を整えながらも、へばってしまったセイ。

「休憩にしましょうか?」 

 一方の総司は多少、息を切らしながらも、笑顔で地面に寝転んだセイを覗き込む。

 その提案に異論は無い。

 セイは辛うじて頷いて「もうちょっと待ってください…」と言った。



 日陰の中は比較的涼しい。

 持ってきた水は多少温くなっていたが、氷のおかげでまだ冷たい。

 その水をごくごくと飲むセイと、涎を垂らしそうになりながら、セイの作った弁当に見入る総司。

「早く食べましょうよ〜」

 総司の泣きそうな声に、セイは苦笑を洩らす。

「分かりました。いただきましょうか?」

 ぱぁあ!と総司が笑う。

「はい!いただきます!」

 合掌し、弁当を食べ始める総司。

「神谷さん〜おいしいです〜vvv」

 頬張りながらセイを褒める総司。その様子が可愛く感じて、セイは嬉しくてたまらない。

「いっぱい作ってきましたから、いっぱい食べてくださいね」

「はい!神谷さんも早く食べてください〜」

「はいはい」

 笑顔でセイは答えて、自分も箸を伸ばした。

 

 セイと総司はニコニコと笑顔で、食べていく。

 先ほどまでの厳しさなど、一欠けらもない。穏やかな雰囲気が流れる。 

 いっぱい掻いた汗がひきはじめた頃、全てのお弁当を食べつくした。

「本当おいしかったです〜vvv 神谷さんの料理は本当おいしいですね〜vvv」

 ご機嫌に何も考えずに褒めた総司だが、セイにとって、その言い方は『セイの女子』の部分を褒めて

もらったようで、赤くなる。

「こんなの普通だと思いますけど……」

 照れてしまい、赤くなった顔を見られまいと俯くセイ。

 しかし、総司は気付かず、無邪気に言った。

「それでですね。今日は実を言うと『ご褒美』を用意しているんです」

『ご褒美』

 セイの乙女心が、グーンと大きくなる 『ご褒美』って……もしかして………



『いつも厳しい稽古を頑張っているんですから、今日はこれで終わり、舞台でも観に行きませんか?』

 などと、デート(笑)に誘われるのかしら…???

 

 と。セイの乙女心想像(もとい妄想)が始まる。が。

「はい!ご褒美です!!」

 そう言って懐から取り出したのは、竹紙で包まれた物。

 見慣れたそれに、セイはクラリと眩暈を覚える。

「……沖田先生……それって泉堂屋の……」

「ええ。よく分かりましたねv 羊羹ですv」

「当たり前です!昨日あれだけ買って、あれだけ食べて、まだ食べるんですか??」

「だって、神谷さんが『食べ過ぎです』って言って、まだ残っているのに止めさせたんじゃないですか?」

「羊羹を四本も食べれば、充分です!!」

「まぁまぁ。落ち着いて。疲れた時には甘いものですよ〜vvv」

 総司はそう言いながら器用に羊羹を割り、小さい方をセイに渡した。

 ニコニコと笑う総司にこれ以上何を言っても無理である。

 セイは諦めを含めた溜息をつき、それを受け取った。

 だが。

「ぎゃ!なんですかコレ?溶けてるんですか??」

 ヌルリとした感触に、悲鳴をあげる。

 溶けているとは違うが、羊羹など冷菓子は冷やして食べるものである。

 先ほどまでの稽古中。ずっと総司の胸元にあった羊羹は、信じられないくらい温くなっていた。

 それを、そんな気持ち悪い物を、総司はペロリと食べた。

 ヒィ〜〜〜!!と心の中で悲鳴を上げるセイ。

「…………先生。これも食べてください」

「え?いいんですか?ありがとうございます〜神谷さんvvv」

 素直に礼を言い、セイの持っていた温い羊羹を受け取り食べる総司。



 ……これのどこが『ご褒美』だ??

 セイの中で怒りが膨れ上がる。



 勢いよく立ち上がり、拳を握るセイ。

「沖田先生!稽古を再開しましょう!!」

「え〜?もうちょっと休憩しましょうよ〜折角『ご褒美』もあるのに……」

 いや。全て総司の腹の中に消えた後なのだが。

「何を言っているんですか?こんなのこんなの…」

 『ご褒美』じゃない!と言ってやりたいが、分かっている。

 沖田先生は、これでも一生懸命に考えてきた。はずなのだ。私が喜ぶと思った。はずなのだ。

 怒ってはいけない。

 普通の人じゃない。野暮な人だと分かっているじゃないか。

 セイは自分に言い聞かせ、心の中に怒りを留める。



「さあ!行きますよ!次こそ先生に『参った』って言わせますから!!」

 その怒りを込めて、まだ座ったままの総司に襲い掛かる。

「もう。仕方ないですね〜。神谷さんは熱心なんだから。でも『参った』なんて言いませんよ〜」

と、軽々とかわしながら、嬉しそうに言う総司。

 セイの怒りに火がそそられる。

「おりゃぁあああ〜!!」

 朱雀野の森の中。 セイの気合の声が響いた。



 しかし。

 昼からの稽古はあっという間に終わる。 セイの体力が限界を超えたのだ。

 失神するように倒れたセイに慌てた総司だが、ただ寝ているだけと分かりホッとする。



 木陰にセイを寝かして、総司もセイの隣に寝転んだ。

 次第に木々に鳥が戻ってきたのか。 遠くから鳥の鳴き声が聞こえはじめる。

 穏やかな気持ちで総司はセイの寝顔を見ていた。

 幼く、可愛らしい寝顔。 すぅーすぅーと気持ちよさそうな寝息をたてながら寝ている。

 早朝から起きて、ずっと厳しい稽古していたのだ。眠りは深いらしい。



 穏やかに。 その、セイの寝顔を見ていた総司だが。

 何か、何故だか、どこからか。

 ムズムズとしたものが湧き上がってくる。

 はて?何だろうか?この感覚は? 総司は考えるが、よく分からない。 

 

 ただ……セイの桃色の頬に触れたいと思った。



 う〜む。と考える。触れてみたいが、触れたらどうなるのか分からない。っていうか、触れたらどうにか

なりそうなのだが、その先が分からない。何がどうなるというのか??

 自分に問いかけるが、何も答えが出ない。

 まあ。とりあえず。

 触れてみよう。と、思った通りにセイの頬に触れようと手を伸ばした、その瞬間。



「……ん…おきたぁせんせぃ……」



 セイが寝言で総司の名を呼んだ。それもフワリと可愛らしく微笑みながら。



 ドッキン!!

 総司の心臓が大きく高鳴り、そのまま鼓動が早くなる。

 ガバリと起き上がり、思わず口を片手で覆う。その総司の顔は真っ赤だ。



 参った。 何が参ったかは分からないが、とにかく参った。

 やばいのだ。これまた何がやばいか分からないけど。



 総司は真っ赤なまま泣きそうになる。

『……ん…おきたぁせんせぃ……』

 と。セイの寝言と、笑顔を思い出し。

「うわ〜〜〜!!!」

と、頭を掻き毟りながら、セイの寝ている場所からガサガサと離れた。



 その叫び声と、総司の動作の音に、セイが眠そうな目をこすりながら起きた。

「……せんせぃ?どうしたんですか?」

 まだ寝ぼけているのか、セイの動作はゆっくりと、普段より幼く、小さく首を傾げる姿は可愛くて。

 総司は叫ぶ。

「神谷さん!あなたはどこでも、どんなところでも寝すぎです!!」

「……へ?そうですか? でも、今は先生と二人なのに……」

「わ、私と一緒でも、あなたは寝てはいけません!それでなくてもあなたは隙だらけなのに!」

 その言い方にムッとなるセイ。眠気など吹っ飛ぶ。

「隙だらけって、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか?今日のは、つい寝てしまっただけです!」

「その『つい』が駄目だって言っているんです!」

「そんなこと言ってますけど、先生だって昼寝!いっぱいしているじゃないですか?」

「私はいいんです!私は何かあれば起きれる自信があります!」

「そんなの私だってあります!」

「いいえ!神谷さんにはありません!!」

「どうしてそんな決め付けるんですか?」

「だって!…」

 総司は続きは言えなかった。



『だって!私が襲いそうになっても寝てましたよ?』



 それは言えない。言ってしまったら、この関係が終わってしまう。

 女子と分かっていても。

 それを意識してはいけない。自分の奥底に言い聞かせる。

 

「沖田先生?」

 突然。黙り込んだ総司に心配そうに声をかけるセイ。よく見れば総司の顔は真っ赤だ。

「何かあったんですか?」

 セイの問いに、総司はますます赤くなった。

 『何かあった』のではなく『何かしそうになった』……とは言えない。

「な、何もありませんよ!それより神谷さんは当分、昼寝は禁止ですからね!」

「そんなの理不尽です!」

「神谷さんのためです!きちんと守りなさい!!」 

 とりあえず。セイがもしも、他の男性の前では寝ていれば『襲われる』と、やっと気付く総司。

 

「私以外と一緒に寝てはいけません!!」



 真っ赤になった総司の叫びにセイは目を点にして。

 それまで言い返していたのを終わらして。

「………はい」

と、小さく答えた。その後、セイの顔が徐々に赤くなる。



 どちらも。

 何かが“おかしい”と思いつつ。

 何が“おかしい”のか分からない。



 だけど。二人とも、どこかが何かが嬉しくて。





 何をするわけでもなく。

 話もせずに、真っ赤な顔のまま“野暮天バカップル”は夕暮れまで朱雀野にいた。















『marble-cafe』様のキリ番【33333】を踏んでリクさせていただきました(>∇<)
まるる様、ありがとうございます!
リク内容は、ズバリ野暮天対決です(笑)

稽古に励む二人にもそれなりにいい雰囲気になる時があるのに…
お互いそれと気付かないのがまた良いのです(^^ゞ
「ご褒美」に胸をときめかせても、結果はやっぱり羊羹で(爆っ
私は羊羹好きですけれどね。ぬくい羊羹はちょっと遠慮したいかも…^_^; 

しかしセイちゃんも負けてはいません。
総司に『何かしそう』にさせるのですもの(笑) 畏るべし、女王!

まるる様らしい穏やかな微笑ましいお話で、にまにましながら読ませていただきました。
私のリクに気持ちよく応えてくださったまるる様に大感謝です。
まるる様のお宅にこれからも楽しみに通わせていただきますので、
今後ともよろしくお願いいたします。

素敵なお話、どうもありがとうございました。m(__)m














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