過去の拍手御礼文です。



提供:ちっちゃなお題。様
項目:『数』より







1.君に一つ



「あ、神谷。ちょっと待て!」

帰ろうとした私を呼び止める声。

「なに?」

本当は嬉しいのに、無愛想な口調になってしまうのは、
あなたに似てきたせいなのかな…。

「やる!」

ただそれだけ言って赤い顔を俯けたあなた。

あなたがぐっと差し出した手に握られたもの。



 ― 今日越してきたばかりのこの部屋の鍵 一つ。






2.それは秘密のペア



「絶対やだ!」

「え、だって他人に見られるものじゃないでしょう?」

「見られるかもしれねえだろ。とにかく俺はやだからな。」


思いっきり断られて、涙が出そうになった。

そんなに嫌なのかな…。


黙ってしまった私に「ほら行くぞ。」
いつもより優しい口調であなたが言った。







「コーヒー入れるね。」

あなたの部屋。

テーブルに新しいカップを二つ並べた。


「悪かったな…。ほんとは御揃いが良かったんだろ?」

思わず手が止まった。

この前あんなに嫌がってたのに…。

済まなそうなあなたの顔を見ているうちに、
何だか可笑しくなってきたの。

「なんだよ。」

「なんでもな〜い。」

「変なヤツ。」

くすくすと笑い続ける私に呆れたのか、
入れたばかりのコーヒーを口にするあなた。



ふふふ。だってね。

あなたが手にしているカップ…。

私の家にもあるのよ。


ごめんね。どうしても ペアにしたかったの…。






3.一人。



ちらり。

また、ちらり。


そして溜め息…。



あなたがいない部屋は、どうしてこんなに時がゆっくりなんだろう。

止まっているんじゃないかと何度も時計を見てしまう。



「もう少しで帰れると思うから、待ってて。」

携帯に入ったメールをもう一度画面に出して眺めて見る。

絵文字の入らないメールはどこか余所余所しくとっつきにくい感じ…。

パタン。携帯の画面を閉じた。



頬杖つきながら、やっぱりあなたのことを考える。

せめて頭の中だけでも一人じゃないように ― 。






4.二人の間



「神谷。」とあなたは私を呼ぶの。

私は「土方さん」って。

でも最近は「ねえ!」とか「ちょっと!」と呼んでいるんだけど。



…だって友達が笑うんだもの。おかしいよって。

「付き合ってるんでしょ? だったら名前で呼ばない? 普通はさ。」

「そう?」

「そうだよー。」



そう…なのかな。

おかしいのかな。

それとも「付き合っている」と思っているのは私だけ…とか?


まさか…ね。


だって、鍵くれたんだもの。

それって、そういうことでしょう?



あっ!! でも私、大切なことをまだ言ってもらってないかも…。


じゃあ、やっぱり………。


また涙が出そうになった。







5.一番星



「そろそろ帰ろうか。」

「え?……あ、うん。」

「もうすぐ暗くなるし、このままいても……なあ?」


あなたの一瞬の間が何を指したのかわかった私は
ちょっと顔が熱くなった。

そう、ここは公園。

忙しかったあなたがようやく誘ってくれたの、今日。

一緒にいるだけでドキドキしてしまう私のことなんて
きっと気付いてもいないよね…。


「つまんないか?」

「え?」

「いや、今日はいつもより静かだから…」

歩きながら言うあなたが反対側を向いたので、
その先に続いた言葉はよく聞き取れなかったの。

「そんなことないよ。ただ…。」

「ただ?」

「…なんでもないっ。」

言えないよ、絶対。
最近、あなたと一緒にいるだけでドキドキするから、だなんて。
あなたが私をどう思っているか考えると胸が一杯になってきちゃう、だなんて。

「何だよ? 気になるだろうが。」

「何でもないったら。」

「こら、待てよ。教えろよ。」


駆け出した私を追いかけてくるあなた。

すぐにつかまってしまうのは癪だから、本気で走っちゃおうかな。

どうせなら本気でつかまえて欲しいな、私のこと。


一番星が輝いている間に ―― 。














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