当   惑
                      ― 破 其の二―








「土方さん。何ですか、話って?」

神谷と二人、副長室に呼ばれた沖田が訝しげに訊ねた。

わざわざ人を介して呼ぶぐらいだからきっと大事な話に違いない。

組の大事に係わることかもしれない…。

普段のへらへらとした顔付きとは打って変わって沖田の目に強い光が浮かぶ。




「実はな。神谷を暫く預かろうと思う。」


「「えっ!?」」

想像だにしなかった土方の言葉に、二人ともよく意味が呑み込めない…。

どういうことなのだろう…。


「だから神谷は暫く俺が預かろうと思う。」

「はいい〜っ?」

神谷が思わず大声で叫んだ。

はっと慌てて口元を押さえるが、土方の一睨みは回避出来そうに無い。


「いいな、総司?」

神谷の反応などお構いなしに土方が話を進めていく。

「ええ、そりゃあ構いませんが…。でも、急にどうしたっていうんです?」

沖田のその答に一縷の望みを断ち切られた神谷はがっくりと肩を落とした。


「俺も最近いろいろと忙しいんでな。人手が欲しいんだが、なかなか手頃なのがいなくてな。」

「ああ、それで神谷さんに。」

ぽーんと手を打ち、にこにこ笑いながら沖田が合いの手を入れた。

「まぁそういうこった。じゃあ、総司。おめえはいいんだな?」

「はい。いいですよ。神谷さんはぴったりですよ。」

「よし。じゃあ決まりだ。―― 神谷、今日からお前は俺付きだ。」

未だに状況が呑み込めない、いや出来れば呑み込みたくない神谷はまだ呆然としている。

「おいっ。聞こえなかったのか? 神谷、お前は今日から俺の手伝いをするんだ。」

「ええーっ。嫌です。それは私に異動しろ、ということですか?」

土方の怒鳴り声に、はっと我に返った神谷が反論する。

このまま押し切られてなるものか。

「そうだ。これは命令だ。」

「でも…」

「神谷さん!」

神谷は尚も言い募ろうとするが、沖田が肩に手を置いて首を振る。



「…わかりました。」

大きく息を吐いて観念したように呟く神谷。

上司の命令には逆らえない。

その日から神谷清三郎は「副長付き」となったのである。








最初の頃こそ不満気だった神谷だが、喧嘩腰に言い合いながらも徐々に仕事を呑みこんでいき、
何日か経った頃には土方の呼吸に合うようになっていた。

今まで雑務に追われて終始していた一日が、神谷のおかげで休息がとれるほど余裕が出来た。

そしてそれは土方に新たな悩みをもたらすことになったのである。













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