空いた時間が出来ると、つい余計な事に目がいってしまう。
神谷のほっそりとした首筋や、華奢な指。
何を思い悩んでいるのか、物憂げな横顔…。
知らず知らずのうちにそれをじっと見つめている自分。
余程、その回数が多いのか、近頃では神谷とよく眼が合う。
慌てて眼を逸らすのだが、反対に訝しげな神谷の視線が突き刺さる。
落ち着かない心持ちになり、用事を思い出した風を装って居室を後にするのだった。
(…おかしい…。何だってこの俺がこんなにもあいつのことが気にかかるんだ…?)
足を止めて自分の部屋を振り返る。
中では神谷が、出て行った土方の分までてきぱきと書を振り分けていることだろう。
近くの柱によりかかり、腕組みしながら土方はその答を探していた……。
当 惑
― 急 ―
「お出かけですか?」
「ああ…。」
「お戻りは?」
「すぐ戻る…」
何か言いかけた神谷を後に、土方は振り向きもせず障子を閉めた。
(その辺でも歩いてくるか…)
折角外へ出たのだから、ぶらりと歩くのも悪くない。少しは気分も変わるだろう。
そう思い、土方はくるりと向きを変え門の方へと歩きだした。
「土方さん。」
背後からかけられた声に、土方は顔をしかめた。
「何だ、総司。」
「やだなあ。そんな怖い顔をしないでくださいよ。声をかけずらいじゃないですか。」
「はん。何言ってやがる、お前にそんな遠慮があったなんて初耳だな。」
土方のしかめ面とは対照的に総司は、にこにこと笑顔を浮かべている。
「おでかけですか?」
「ああ、ちょっとな。」
「ずいぶん余裕があるんですね。」
「ん?」
「少し前までは部屋を空けることが少なかったのに、近頃はよく庭先で土方さんを見かけるもの。
…神谷さん、頑張ってるみたいですね。」
「寂しいか?」
土方は、微笑を浮かべながら話す沖田の横顔をじっと見た。
沖田が土方を見つめ返す。一瞬だけ沖田の表情が厳しくなったような気がした。
はっとして土方が見返した時にはもう、沖田の顔にいつもの笑みが戻っていた。
「そりゃあね、寂しいですよ。だってあんなに賑やかだった人がいないんですからね。静かというか、平和というか。」
両掌の上に向け、肩をすくめた格好で沖田が答える。
「……」
「どうしたんですか?土方さん。」
てっきり「おかげでこっちは騒々しくなったがな」というような言葉が返ってくるかと思いきや、
黙りこんだまま何か考えている土方の顔を、沖田が心配そうに覗き込んだ。
「な、何でもねえ!」
突然視界に入り込んできた沖田の顔に、土方の体はびくりと動いた。
「…ほんと変ですよ、土方さん。何か思案事でもあるんですか?」
「別にそんなものはねえよ。」
「そうですか〜?」
疑り深い眼で自分をじっと見る沖田に、右の口角をあげふっと意地悪気に笑って土方が言う。
「もしあったとしても、お前には言ってもしょうがねえがな。」
「何ですかっ、それは。…… まあ、そうかもしれませんが。」
口を尖らせて拗ねた様子を見せるのだが、すぐにいつものようにからからと笑う沖田。
つられて土方も笑ったが、心の中ではいくつもの思いが交錯していた。
(あの時見せた総司の表情は何なんだ…?)
(総司にとって神谷は何だ? ……弟か…いや違う。…違うんだろう、きっと。)
(そして…それが気になってしょうがねえ俺は、いったいどうしちまったんだろうな。)
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